第54章 【ウンメイノヒ】チュウガクキ①
「おい、テメェ!無神経だぞ!菊丸先輩の気持ちも考えろ!」
「う、うるせぇ!オレは普通にしたほうがいいと思ったんだよ!」
そんな2人の争う声を遠くに聞きながら、黙って立ち上がりその場を立ち去ると、不二のスニーカーが視界に入る。
顔を上げると複雑な表情の不二と目があって、その向こうにやっぱり同じ顔の乾とタカさんも立っていて、手塚なんてドイツに戻る予定を延ばしてまでここにいて、みんなに気を使わせてるこの状況に胸が痛んだ。
「英二、カウンセリングを受けたらどうだ?章高おじさんに頼んでいい医者を紹介してもらえば……」
「……いいや、オレ……ガキの頃も受けてたけど……」
「どうして……!?諦めるなよ!諦めなきゃ必ず」
「いいんだって!!」
かーちゃん、泣くしさ……
オレの心配をして泣いてくれてるのは分かってるけど、もうこれ以上、心配、掛けたくねーもん……
幼い頃、一緒にカウンセリングに通ってくれた母はいつも泣いていた。
その姿を見て、もうこれ以上心配かけたくない、そう強く思って決意した。
心配かけたくなくて、負担になりたくなくて、自分で何とか出来たらって、色々頑張ってみたけれど……
テニスを諦めなくてすむように、必死に挑戦してみたけれど……
「ごめん、不二、オレ、高校でも全国制覇の約束、守れそうにないや……」
力なく笑って不二に視線を送ると、なんて声をかけたらいいか迷っているのが分かって、んな顔すんなって、そう言ってまた笑った。
「大石もごめん、ゴールデンペア解散だよん、最後に試合、出来て良かった……」
振り返って大石に拳を向けてタッチを求めると、大石はそのオレの拳には応えずに、俯いたまま静かに肩を振るわせた。
「同情なんかすんなって、オレ、そーゆーの、すげー、やだ……」
黙って首を振る大石に、嘘だよ、ちゃんと分かってるって、親友、そう力なく笑い、空に浮いた拳で大石の胸をトンっと叩く。
今までサンキュ、そう呟くとオレの目からも涙が零れ落ちた。