第54章 【ウンメイノヒ】チュウガクキ①
小学生になるともう本当の母親を恋しく思うことなんかなくなって、オレを捨てたことに嫌悪感しかなくなって……
だけど今の家族の大きな愛情に包まれて育ったおかげで、そんなことどうでも良くなっていて、そのうちすっかり忘れてしまった。
中学は兄弟たちと同じように青学を受験して合格して、オレは中学生になった。
運動は好きだったし大抵なんでも器用にこなせたから、何部に入ろうか迷ったけど、やっぱりにーちゃんもしていたし、そん時に着ていたレギュラージャージが格好良かったから、そんな不純な動機でテニス部に入った。
勉強は嫌いだったけど、友達もたくさん出来て、学校でも家庭でも本当に毎日がすげー楽しくて充実していて……
あの賑やかな家族の中で末っ子として暮らしていれば、自然と天真爛漫で無邪気に育って、ガキの頃のように無理に笑うこともなくなって……
「元気で明るい菊丸英二」が作られたキャラだなんて言えないくらい、それは本当に自然な自分の姿になっていた。
大石、不二、手塚、乾、タカさんと一緒に、オレたちの代では青学を全国へと夢見た一年生。
桃や海堂が入部して後輩が出来ると、先輩と呼ばれることが嬉しくて少し背伸びした二年生。
それから、三年生でおチビも加わって本気で挑んだ全国大会、そして全国制覇……
みんなとの出会いと過ごしたあの頃の熱い時間は、確実に自分の中のかけがえのない、大切な、凄く大切な、タカラモノ……
たとえ進路が違ったって、みんなバラバラになったって、その熱い共通のタカラモノを胸に持っているオレたちは、いつだってどんなときだって大切な仲間で、多分、それは一生、何があったって変わらない……
そんな漠然とした意識が、まさかあんなことで証明されるとは思ってもいなかった。