第10章 【ホウカゴ】
「……空、か」
ここは校舎の上の更に上、学校で一番空に近い場所。
屋上の入り口を入ってすぐのはしごを登った先にある、ちょっとしたスペースは最近のオレの指定席。
遮るものが何もないそこに寝転んで、だだっ広い夕焼け空を見上げると、飛び立つ鳥に視線を向ける。
いつも手を伸ばせば届きそうなこの場所で、届きもしないそれに手を伸ばす。
すぐ近くに見えて、実はすごく遠くにある。
どんなに必死に伸ばしても、絶対この手では掴めない。
眩しく光り輝く憧れと、どす黒く渦巻く憎悪とが入り乱れる。
伸ばした手の指の間から見える空。
このまま溶けてしまえばいい、消えてなくなってしまえばいい。
オレの心も身体もすべて、この空と一つになってしまえばいい。
そう思ってひたすら遠い空を仰ぐ。
「お、誰もいねーぜ?」
屋上の重い扉がギギーッと開く音と鈍い振動を感じて視線を向ける。
チッ、誰だよ……、そう心の中で舌打ちをする。
身体を反転させてうつ伏せになると、頬杖をついてそいつらを見下ろした。
「なぁなぁ、最近、ちょっとヤバくね?」
「ああ、アレだろ?」
「なになに?何のこと?」
なんだ、クラスメイトの小林達じゃん……
クラスメイトの男子3人は、ここで寝転ぶオレには気がつかないで、そのままフェンス沿いまで進むと、和になって話し込む。
「なんだよ、わっかんねーのか!?小宮山だよ、小宮山!!」
ふーん、小宮山ねぇ~?
その名前を聞いて思わずニヤリと笑う。
「ああ、なんか急にイメチェンしたよな」
「イメチェンなんてレベルじゃねーって、ありゃ」
「メガネ外したら実は美人ってマジであるんだな!髪なんてサラサラでさー!」
そう盛り上がるクラスメイトの会話を、高い位置から見下ろして優越感に浸る。