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【テニプリ】闇菊【R18】

第50章 【フアンナオモイ】ヨウジキ②




西日が部屋に射し込む頃、母は仕事に行く準備をする。
あの男は今はぐっすりと眠っている。
久しぶりに母と2人のこの状況に、本能から母の側にまとわりつく。


「……英ちゃん……なに?」


少し気怠い母の声。
あの男に向けられる甘ったるいものと違うそれは、ずっとオレに向けられたものと同じで、毎日聞いている母の声なのに懐かしくて胸がキューっとなった。


母の腰に細い腕を回してギュッと力を込める。
だから何よ……?、チラッと視線だけむけて母がまた呟く。


お酒とタバコと香水の懐かしい母の香り。
クンクンと鼻を鳴らして顔を埋める。


この間ははぐらかされた質問。
おかーしゃん、オレのこと、好き……?、もう一度、恐る恐る問いかける。


「……だから、当たり前でしょ」

「ちゃんと言ってよ、ねぇ、オレのこと好き?」

「いい加減にして、忙しいの!」


母のイラついた声にビクッと肩を振るわせる。
もうなにも言えなくて、でも離れたくなくてギュッと腕に力を込めた。


暫くの沈黙。
不安からそっと母の顔を覗き込むと、母の視線はオレの痣と絆創膏だらけ腕にむけられていた。


……これ、どうしたの?、そう絆創膏を指差して母が問いかける。
ドキッとして慌てて手を背中に隠す。
ごめんなしゃい、勝手に……、そう呟いて俯くと、別に、いいのよ、そう母は静かに呟いた。


「……おかーしゃん、あのね……」


オレ、あの男、好きじゃない……、なんてとても口には出来なくて黙って口を閉ざす。
ううん、あの男だけじゃなく、前の男も嫌いだった。
本当はおかーしゃんと2人がいい……


だけど、男と一緒にいるときの母の笑顔。
オレには滅多に向けられない笑顔。
喜ぶ母をみていたらオレが我慢すればいいんだって、そう諦めるしかなくて……


「……オレのこと好き?」


本当に言いたいことは言えなくて、結局、また同じ質問を繰り返す。
一度だけでも「好きよ」って言葉を聞ければ満足するのに、やっぱり母は言ってくれなくて、しつこいわよ、そう迷惑そうにため息をついた。

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