第9章 【キクマルトエイジ】
それから英二くんは時々携帯を鳴らして私を呼びだした。
それはこの間の倉庫だったり、人気のない屋上だったり、図書室の本棚の陰だったり……
その都度、私は彼に従うしかなかった。
いつも誰かが来るかもしれないという緊張感に恐怖した。
英二くんはそれがいーんじゃん?と笑っていたけれど……
「小宮山ってほーんと、エロい身体してるよなー」
いつも事後の処理中に英二くんはそんなことを私に言う。
私はそれを無視して黙々と乱れた着衣を直す。
いつまでこんなことが続くのだろう?
いつになったら解放してくれるのだろう?
解放されたら楽になるだろうか?
この屈辱感や虚無感を感じずにすむだろうか?
いつからか、彼に何をされても私は抵抗する事をしなくなった。
ただ言われるがまま、彼の要求に応えた。
彼と身体を重ねる度に、愛のないその行為が私の心をひどく傷つけた。
それとは対照的に身体はより快楽を感じ、彼を求めていった。
それがまたどうしようもなく自尊心を傷つけた。
私はどうしてこんなことをされても彼を嫌いになれないのだろう?
いっそ嫌いになって憎めればいいのに。
憎しみだけの感情の方がずっと楽そうなのに。
それかいっそ私も割り切ってしまえばいい。
彼の恋愛観を受け入れてしまえば、逆に楽しめるのではないだろうか?
彼のボランティアとやらに乗っかって、その時だけの疑似恋愛を楽しめばいい。
どちらにしても、どうやったらそう気持ちを切り替えることが出きるのだろうか?
誰か教えてほしい……
なんでも良いから私を楽にしてほしい……
助けて……
彼が去った後、ひとり残された私はいつもそう涙を流した。