第49章 【ハジマリノキオク】ヨウジキ①
「この泥棒ネコ!!」
「ちょっと、痛いじゃない!!離しなさいよ!!」
母が裸の女に掴みかかり、その髪を思い切りひっぱると、女も黙ってないですぐに母に平手打ちを繰り出す。
お互いの身体を掴み合いながら2人とも倒れ込んで、テーブルがガタンと大きな音を立てた。
「お、俺が悪いんじゃねーよ、この女がしつこく言い寄ってきたんだ!」
肝心の男と言ったらこの期に及んでそんな言い逃れをしていて、その言葉を聞いた知らない女は、私のせいにするつもり!?、そう男を睨みつける。
「なによ!あんた言ってたじゃない!、古物気の弛んだ身体なんて、全然興奮しないって!!」
「バ、バカ、何、言ってんだよ!」
「とぼけないでよ!!いくら若くたって、ガキ産んだら女は終わりだなって、私のナカに突っ込みながら、さんざん喜んでたくせに!!」
その女の言葉が、自分のせいだと言われているようでドキンとした。
言葉を失った母親は、震える拳を握りしめて、なによ……そう小さく呟くと、チラッとオレを見て、それから唇を噛みしめた。
もういいわよっ!!、そう震えながら叫んだ母は、男と女の脱ぎ散らかした服をかき集めると、さっさと出て行きなさいよっ!!、そうわめきながら、思い切り窓の外に放り投げた。
「なんてことすんだよ、テメェ!!」
「ちょ、ヤダ、私の服!!」
慌てて裸のまま窓から飛び出した2人は、その騒ぎに様子を見に来た近所の人たちの前で、恥ずかしそうに服を着ると、ふざけんなよ!そう罰悪そうにどこかへと走り去った。
「……おかーしゃ……」
2人が立ち去った後、取っ組み合いでボロボロになり呆然と座り込む母に、恐る恐る声をかけた。
母はチラッとオレに視線を向けると、英ちゃん、ビール……、そう小さく呟いた。
急いで冷蔵庫からビールを持ってきて母に渡すと、奪い取るようにプルタブを開けて泣きながら一気に飲み干した。
その夜、母は朝までずっと浴びるように飲み続けていた。