第8章 【イタミ】
それは2年生に進級して同じクラスになってからも何も変わらず、私はいつも自分の席から、読んでいる本に顔を隠し、こっそり彼を見つめていた。
ただそれだけで幸せだった。
彼はいつもクラスの中心にいて、いつも人懐っこい笑顔でニコニコしていて、その笑顔はキラキラ輝いていて……
あの雨の日の公園で見たような、寂し気な笑顔は決して見せなかった。
もしかしたら捨て猫と、あの時の雨の雰囲気がそうさせたものだったのかな、なんて納得していた。
それ程、彼はいつも満面の笑みだった。
喜怒哀楽が激しく、天真爛漫で、自分の欲求には素直で忠実で、でも相手を思いやる気持ちもわすれない。
勉強はちょっと苦手で、でも運動は誰よりも得意で……そんな彼に私はどんどん惹かれていった。
当然、そんな彼には沢山の女の子達が想いを寄せていた。
中学の頃から沢山の女の子が彼に告白して、そして撃沈したという噂は知っていた。
それは高校になってからも相変わらずで、彼に振られたと言って泣く女の子は後を絶たなかった。
あまりにも彼女を作らないものだから、実は男の子のほうが好きなんじゃないの?ってからかわれていたことがあって、ひでー!んなわけないじゃん!って頬を膨らませていたっけ……
オレ、女の子大好きだぞ!って堂々と女好き宣言?している彼に、それなら他校にでも彼女がいるのかな?なんてみんなが噂していた。
そんな噂に菊丸くんは、さー?どうでしょー?ってとぼけて意味深に笑っていた。
菊丸くん……!
菊丸くん……!!
菊丸くん……!!!
いつの間にか外はすっかり暗くなっていた。
月明かりが差し込む薄暗い部屋で、ただ行き場のない彼への想いに涙を流した。