第41章 【エガオノオク】
「ん?ちょっと待って下さいよ!英二先輩って、学校の女子には手を出さない主義なんじゃ……」
急に桃が青い顔をしてそんな事を言い出したから、鳴海さんか、そう乾がボソッと呟く。
乾先輩、本当はどうなんですか……?そう乾に泣きつく桃に、乾はメガネをクイッと指で押し上げる。
「朝の英二の態度と2人の性格を考慮した結果、既に2人が一線を越えている確率は……」
「確率は……!?」
「……さて、全国の有力選手のデータ分析でもするか」
そう答えをはぐらかした乾に、乾先輩~、そう桃が泣きつき、どうせテメェは嫌われてるんだから関係ないだろ、なんて海堂がはっきり言って、また2人の掴み合いが始まる。
「2人とも、そろそろいい加減にしようか?」
そう言ってクスクス笑うと、2人ともビクッと肩を振るわせて、それから首をすくめて大人しくなった。
それにしても、桃が心配している鳴海さんの事だけど、確かにちょっと気になるな……
英二の様子を見た感じだと、多分、もう既に身体の関係を持っているはず……
僕の場合は乾のデータと違ってただの勘だけど。
で、実際の確率はどれくらい?そう桃と海堂には聞こえないようにこっそり乾に問いかけると、99.8パーセント、そう乾が小さい声で答えた。
乾のデータ上でもそうか……なんて言ってため息を付く僕に、不毛だな、そう乾がポツリと呟くから、そんな事ないよ?そう言ってクスリと笑う。
全く、乾には隠し事は出来ないな……
テニスならそうそう簡単にデータをとらせたりはしないんだけど。
いいんだ、あの2人が幸せなら……そう決して強がりではない自分の気持ちを声にする。
それから、だけど……そう少し声のトーンを落として、もう一つの本音を笑顔に込める。
「もし次に英二が小宮山さんを酷く傷付けたら……その時は黙ってないよ?」
通路のドアを閉じる間際に見た2人を思い出し、小宮山さんと一度だけ重なった自分の唇にそっと触れた。