第35章 【ナツヤスミマデ】
「そうそう、あのね、夏休みにお父さんがイギリスに来て欲しいんだって」
イギリス!?そう驚いて顔を上げると、そうなの、そう言ってお母さんは食事の手を止めるとカレンダーに歩み寄り、ペラッとめくって8月を眺める。
「お父さんのお仕事の取引先でね、盛大なパーティーか開かれるそうなの。正式なものだしお母さんも同伴するそうなのよ」
「へぇ、夫婦で招待されるなんて素敵♪」
イギリスかぁ……前回行ったのも夏だったな……
あの時はナオちゃんのことで気分転換にお父さんとお母さんが連れて行ってくれたっけ……
「璃音も予定、開けておいてね?」
うん、もちろん、そう返事をしようとしてピクッと身体を固まらせる。
イギリス……行きたいけれど……久しぶりの家族団らんだけど……イギリスの大学も見ておいた方がいいけれど……
「……お母さん、ごめんなさい、私……行けない……」
そうポツリと呟いた私を、驚いた顔でお母さんが振り返る。
何か外せない予定でもあった……?そう問いかけるお母さんに、そう言う訳じゃ無いけど……そう言葉を濁す。
「ネコ丸だっているし……」
「ペットホテルにお願いすれば大丈夫よ?」
「でも可哀想だし……」
「だいたい、璃音、独創的なご飯しか作れないでしょ?」
「コンビニやスーパーで乗り切れるよ……大丈夫」
もし万が一、イギリスに行っている間に英二くんが連絡くれたら……私、絶対、後悔する……
いつ連絡くれるかわからないのに、くれるかどうかもわからないのに、もし連絡をくれたときにすぐに会いに行けない予定を入れることなんか出来ない……
「やっぱりダメよ、女子高生一人置いて海外旅行なんて行けないわ」
「ちゃんと戸締まり気をつけるし大丈夫だよ、本当に大丈夫だから!」
私のことは気にしないで、お母さん、久しぶりにお父さんと2人きりで沢山デートしておいでよ?、そう言って強引に話を終わらせる。
今は……英二くんからの連絡を待つことを最優先したいの……
お父さん、泣くわよ?そうため息をつく母に、ごめんなさい、そう呟いて目を伏せた。