第7章 【ネコニマタタビ】
「もういい加減あきらめれば?そんなことしたって無駄だって」
必死に両手を引っ張って、自由を奪うそれから逃れようとしたけれど、何かにしっかり固定されたその両手は全然解けそうもない。
絶対解けないように結んじゃったもんね、そう楽しそうに笑う彼に、背筋をゾクッと悪寒が走る。
額からツツーッと一筋の汗が流れおちる。
これから起こることを想像すると恐怖から涙が溢れ出す。
拘束された手首にリボンが食い込み、鈍い痛みを放つ。
「どうして……?菊丸くん、彼女、いるんでしょ……?」
「へ?……んなもんいないよん?」
「だって……あの時の女の人……」
そう言いかけて慌てて言葉を飲み込んだ。
そんな私を見下ろす彼はまたしても口元を歪ませると、あんなのただのセフレじゃん、そう言ってニヤリと笑う。
「抜くためだけの道具、ダッチワイフと一緒だって」
「ダッチ……って、そんな酷い……!」
そう言う私に菊丸くんは、別にいーじゃん、なんて面倒くさそうに頭をかいた。
「言い寄ってきたのはあっちなんだしさ、オレが好きだって言うから時々抱いてやってんの、ボランティアみたいなもんじゃん?」
オレってばやっさしー、そう菊丸くんは得意げに笑う。
「だから小宮山も、今から楽しませてやるかんな?」
この人はいったい誰……?
この歪んだ笑みを浮かべて私を拘束する彼と、教室でみんなの中心にいて無邪気に笑う彼……
本当に同一人物なの……?
私は今まで、この人のいったい何を見ていたと言うの……?
そう歪んだ笑みを浮かべる菊丸くんを見上げながら、困惑と恐怖に息を飲んだ。