第32章 【ゲキタイ】
「璃音……今日、学校、お休みする……?」
おはよう、そう挨拶をしてキッチンに顔を出すと、朝食を作る手を止めた母が私の顔を見るなりそう言い出したから、え……?って顔を上げて目を見開く。
休まないよ?どうしてそんな事言うの?ってなんでもない振りをして笑顔で問いかけると、ううん……気のせいならいいんだけど……そう母は少し不安そうに笑う。
ああ、私、多分、顔に出てるんだ……
あの頃、散々心配かけたから、お母さんを不安にさせちゃってる……
「大丈夫だよ、お母さん、ちょっと昔の夢、みただけだから」
下手な誤魔化しは余計な心配をかけるから、素直に打ち明けて苦笑いすると、そんな私をお母さんは黙って抱きしめる。
中学にいけなくなった頃は毎晩同じ夢を見て、何度も泣き叫びながら目を覚ました。
お母さんはそんな私と一緒の部屋で寝てくれて、そして大丈夫、大丈夫と、一晩中抱きしめてくれた。
お父さんもしばらく仕事を休んでくれて、緊急で帰国してくれて、それからすぐに新しい家を買って引っ越しの手続きを全部済ませてくれた。
その両親の暖かさに少しずつ心が癒されていって、携帯も買い換えて、引っ越しもして、もうナオちゃんとの接点はなくなって、高校も青学に入学して……その安心感も手伝って、だんだんあの夢を見ることもなくなった。
中学の時も英二くんの事でも、お母さんの暖かさに、本当に救われているな……
いつもありがとう、そう抱きしめてくれるお母さんにお礼を言うと、もう一度気を引き締めて顔を上げる。
これ以上お父さんとお母さんに心配かけるわけにいかない、自分でなんとかしないと……
そう思うと同時に、私もお母さんに癒してもらったように、英二くんを救ってあげれるのかな……?そう不二くんの言葉を半信半疑で思い出した。