第5章 【カウントダウン】
委員会後、自然な流れで菊丸くんと一緒に教室へと向かうも、特に会話もなく重い空気が流れる。
そんな空気の中教室に入ったところでふと気が付いた。
何読んでんの?って、本そのものじゃなくて本のタイトルを聞いていたのか……
「……グリム童話です」
「……へ?」
「本、グリム童話です」
そう、突拍子もない私の言葉に、自分の机にむかおうとしていた菊丸くんは最初、ぽっかーんとした顔をしていたけれど、あぁっ!とその意味を理解したのか、次の瞬間アハハハハと盛大に笑いだす。
教室に残っていた生徒たちが、何事?という顔で一斉にこちらに視線を向ける。
「な、なんで笑うんですか!?」
「だって、小宮山さん、その話題、今更~!」
そう、ひーっとおなかを抱え、涙を浮かべて笑う菊丸くんに、もういいです、そう机から荷物を出して通学カバンを開ける。
「や、ごめん、ごめんって!でもさ、意外だよなー、小宮山さんが童話……って、へ?それ、英語?」
「いえ、英語版は中学でもう何度も読みました。これはオリジナルのドイツ語です」
そんな私の答えに、……やっぱ手塚みたい、そう言って菊丸くんは首をすくめた。
「英二~、なに笑ってんの~?」
「なーいしょ!オレと小宮山さんの2人だけの秘密だよん♪」
そんな菊丸くんのもとに集まってきた女の子たちに、彼はそう言うと私にウインクをしたから、思わず心臓がドキンとなって、ふーっと大きく深呼吸をする。
「私の読んでいる本の話題です」
「あーっ、ひでー!なんで話しちゃうんだよ~!」
「秘密にするほどの話題ではないので……」
そういって、通学カバンを抱えて教室を後にする。
その途端、心臓がバクバクと動き出し、顔がかぁーっと火照る。
教室からは、感じ悪ーっという女の子達の声が聞こえてきて、別にいいんだけど、少しだけ胸が痛んだ。