第26章 【イタイノトンデイケ】
「不二!英二、大丈夫かい?」
ああ、タカさんが来てくれたんだな……そう思って、チラッと顔を上げると、不安そうな顔をして走ってくるタカさんが見えた。
タカさん、ゴメン、そう精一杯の笑顔を見せると、何言ってるんだよ、英二、水くさいこと言うなよ、そう言ってオレの横にしゃがみこみ、動けるかい?そう心配そうな顔をする。
ん、もちょっと、そう言ってフラフラする頭をもう一度タオルに埋めると、ゆっくりでいいよ、そう不二とタカさんが声をかけてくれる。
オレは元気で明るい菊丸英二だよん
オレは元気で明るい菊丸英二だよん
オレは元気で明るい菊丸英二だよん
幼い頃から何度も自分に言い聞かせる呪文の言葉を小さい声で繰り返す。
溢れる涙をタオルに染み込ませ、震える身体を抱きしめると、少しずつ落ち着いてくるのが分かる。
ふぃーっと顔を上げ、タオルで涙を拭い、2人とも頼むよ、そう言って笑顔を見せると、2人が肩を貸してくれて、そのまま保健室へと連れて行ってもらう。
「英二の家に連絡が付いた。すぐに車で来てくれるそうだ」
保健室につくと先に来ていた乾がベッドへと誘導してくれる。
連絡しなくて大丈夫なのに、そう言って笑うと、家族に心配をかけたくないという英二の気持ちは分かるが、そう言うわけにもいかないからね、そう言って乾はメガネをクイッと中指で押し上げた。
「あなた達はもういいから授業に戻りなさい」
乾の連絡で遅れてやってきた保健の先生がみんなに言うけれど、いえ、彼の家族が来るまでここにいます、そう言って3人とも側にいてくれた。
ほんと、みんなオレなんかの為にんなことしなくていいのにさ、そう申し訳なく思うと同時に、仲間の友情に胸が熱くなっていく。
顔の上に乗せたタオルの上から手で顔を覆うと、ほんと、みんなあんがとね、そうお礼を言ってまた涙を流した。