第5章 【カウントダウン】
「菊丸くん、今日の放課後、会議室で体育祭実行委員ですから」
いつものように沢山のクラスメイトの中心にいる菊丸くんに、クラスメイトの波を掻き分けて近づくと、意を決してそう伝える。
そんな私に菊丸くんは、ほいほーい!そう笑顔でブイサインをする。
いつもの彼の何気ない行動。
何気ない笑顔。
あれから特に菊丸くんと接点はない。
まぁ、もともとそうだったんだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど……
やっぱりあの日の朝のことはバレてなかったみたい。
そうすっかり安心して胸をなでおろす。
それから自分の席に戻り、いつものように読みかけの本を机の中から取り出す。
……そう言えば、あの日の朝、あの場所に忘れてきた本、後からとりに行ったけど、もうなかったんだよね……
まぁ、あんなことがあった後だから、とてもすぐに探しに行けなくて、次の日に行ったし仕方がないんだけど……
ちょっと残念だったな、好きな本だったのに……なんて思ったら、今更ながら腹が立ってきた。
それもこれも全部菊丸くんがあんな場所であんなことをしてるからだ!
まったく、やるのは勝手だけど場所考えてよね、自宅でしなさいよね!
そう思ったら、あの時の映像を鮮明に思い出してしまい、慌てて首を横にブンブンと振る。
ダメダメ、あのことは……そう!猫の交尾でも目撃したと思って忘れよう!
うん、忘れればいい。
あの日の光景も、あの歪んだ笑顔も、彼への想いも。
そうすればきっと楽になれるんだから……
手元の本に綴られた文字がじんわりと涙で滲んだ。