第4章 【オソレトフアン】
重い足取りだろうがなんだろうが、前に進めばしっかり学校へとたどり着く。
おはようー、そう挨拶しながら、みんな楽しそうに登校している。
私の気持ちも知らないで……って言ってないんだから当たり前なんだけど……
憂鬱な思いで正門をくぐり、昇降口で靴を履き替え、階段を登り、教室へとたどり着く。
そしてそっとクラスの入り口から中を覗く。
大丈夫、菊丸くんは……まだ来ていない……
イソイソと入ってすぐの自分の席へと座り、それから鞄から本を取り出すと、黙々とそれに視線を落とす。
だけど、菊丸くんがいつ来るか、バレていたらどうしよう……内心、そんな心配で本の内容なんて全然頭に入ってこないんだけど……
「おっはよーん♪」
元気な声が聞こえ心臓が跳ね上がる。
こっそり顔をあげて様子を伺うと、目の前の入り口から入ってきた菊丸くんとバッチリ目があって、慌てて俯き本に顔を隠す。
ひゃー、やっぱ普通になんて無理!!
思いっきり、目、そらしちゃったよっ!
カァーッと顔が赤くなり、心臓がバクバクと騒ぎ出す。
「おっはよー、小宮山さん!」
いつもと変わらぬその挨拶に、えっ?と思わず顔を上げると、彼は普段の笑顔のまま、どったの?なんて首を傾げた。
「……あ、いいえ……おはよう、ございます……」
大丈夫、菊丸くんはいつもと一緒……
やっぱり気づかれていない……よね?
もし気が付いていたら少しくらい動揺するでしょ……?
「英二、おはよーっ!」
彼が教室に入ってきただけで、周りの空気が明るくなる。
男子も女子もみんなが菊丸くんに挨拶をする。
自然と彼の席の周りには人だかりができる。
私の席は廊下側の一番前。
彼は席は窓際の一番後ろ。
対角線上に出来る私と彼の距離感、そしてその温度差はいつもと少しも変わらない。
その日常にほっと胸をなでおろした。