第113章 【オトウサン】
「すみません、ちょっと目を離した隙に・・・ありがとうございま・・・」
ソラの元に駆け寄り、ギュッとその身体を抱きしめると、ソラが誰かと手を繋いでいるのに気がついて・・・
人見知りのソラが珍しいな・・・
なんて思いながら連れてきてくれたであろう方にお礼を言って、視線を上げていく途中で、ザワザワと胸が騒ぎ出す。
え・・・?、この感じ・・・まさか・・・
何度も繋いでくれた手のひら・・・抱きしめてくれた腕・・・
頬を埋めた胸・・・柔らかい赤茶の外ハネの髪の毛・・・
テープ式の白い頬の絆創膏・・・大きなパッチリとした二重の瞳・・・
忘れるはずない・・・忘れられない・・・
でも、どうして・・・?
英二くん、今は都心のマンションで一人暮らしだって・・・
今をときめく人気アイドルグループのメンバーだし、すごく忙しいみたいだし・・・
身動きが取れなかった。
まるで時間が止まってしまったようで・・・
頬や髪を揺らす風に、きちんと時間は進んでいるんだって理解出来たけど・・・
「・・・あ、璃音・・・」
ハッとして慌ててソラを抱えて立ち上がった。
何処のどなたか存じませんが、ありがとうございました!、そう叫んで走り出した。
見つかる訳にはいかないから・・・
いや、見つかってしまったんだけれど、こうなったらこのまま逃げるしかないから・・・
「璃音、待って!」
待てません!、そう返事して(そもそも返事をする必要はなかった気もするけど)構わず走り続けた。
だけど、私のいたって普通の運動神経では、英二くんに適うはずがなくて・・・
すぐにガシッと腕を掴まれてしまって・・・
「待ってってば・・・璃音・・・」
心臓が破裂しそうだった。
だって、本当はずっと会いたくて会いたくて、仕方がなかったんだもん・・・
ずっと大好きで大好きで、思い続けてきた人だもん・・・
それが、今、こうして目の前に現れてくれて、触れてくれて、私の名前を呼んでくれているんだもの・・・