第111章 【ホコレルヒトニ】
「・・・知ってますよ、父親でしょ?」
その言葉にハッとして顔を上げる。
思いっきり言い当てられたことで、バクバクと心臓が騒ぎ出す。
「か、かーちゃん・・・そう言ったの!?」
「いえ、でも見てれば分かりますよ、こんなにそっくりなのに他人なはずないじゃないですか・・・それに、母の態度も・・・
普段、テレビなんかほとんど観ないのに、貴方が出てる番組は何をしていても必ず手を止めて観ているし・・・この雑誌にも付箋いっぱい貼り付けて・・・」
ああ、本当に璃音だ・・・
夏休み、璃音の家でテレビから流れたCM、興味無さそうな振りをしながら、気に入った俳優をジッと見つめていた。
机の上に置かれたファッション雑誌には、付箋いっぱいくっつけて・・・
幸せだったあの頃を鮮明に思い出して、懐かしさで胸がいっぱいになる。
「・・・ソラー!・・・」
遠くから聞こえた懐かしい呼び声・・・
ずっと聴きたかった、璃音の・・・
途端に涙が溢れ出す。
「名前?、小宮山、ソラ・・・?」
声のする方向を見ていた息子に問いかけると、んって小さく頷いた。
ああ、すげー、いい名前、つけてもらったな・・・
璃音の名前のセンスだと、英二郎とか、英五郎とかじゃないかって思ったけど・・・
「お父さんが、ずっと見てくれているからって・・・」
そっか・・・、そう呟いて、グイッと涙を拳で拭い、大きな空を眺める。
かーちゃんのとこ、連れてって?、そう言って手を伸ばすと、ソラが戸惑いながら手を伸ばしてくれる。
「璃音、料理上手になった?」
「・・・独創的な味付けです。」
「はは、やっぱり・・・ネコ丸は元気?」
「はい、パクパク食べてます。」
繋いだ小さい手の温かさ・・・
その口から語られる愛しい人たちの近況・・・
茂みを抜けた先、いつもの東屋に佇む女の人、キョロキョロと辺りを見回し、またソラの名前を呼ぶ。
会いたくて、会いたくて、会いたくて・・・
あんなに恋焦がれた璃音がすぐそこにいるのに・・・
直ぐに駆け寄って抱きしめたいのに、足がすくんで動かなくて・・・
ぎゅっとソラの手を握る手に力が入った。