第103章 【ボクガシアワセニ】
「小宮山さん、寒くない?」
「はい、大丈夫です・・・」
部室を出ると、ひとつの傘をふたりでさしながら校門へと向かう。
彼女の肩に腕を回して、寄り添うような体制で歩き続ける。
小宮山さんが濡れないように・・・
しっかりと離れないように・・・
校舎から見渡せる場所まで来ると、彼女に知られないようにチラッと視線だけで振り返る。
そこは英二が見ているであろう教室・・・
だけどもう英二はこちらを見てなくて、ゆっくりと視線を前に戻した。
唇が触れるだけのキスを終えると、小宮山さんは恥ずかしそうに目を泳がせて、それから、必死に言葉を探して唇を動かしていて、ゴメン、そう謝る僕に真っ赤な顔で大きく首を横に振った。
小宮山さんが添えてくれたその手にどんな意味があるのか、僕にははっきり分からなかったけど、それでも、その手を握って歩き出した。
「あ、あの・・・私・・・嬉しかったです、不二くんの気持ち・・・でも・・・」
「大丈夫・・・何も言わなくていいよ・・・拒まずにいてくれてありがとう。」
利用していいと言ったのは僕だ。
小宮山さんの傷ついた心が、僕に寄り添うことで一瞬でも紛れるのなら、それで構わない・・・
今、じゃなくていい・・・
いつか、僕が、特別になってくれたら、それで・・・
「本当にありがとうございました。不二くんが来てくれなかったら、私、きっとまだあの場所にいたと思います・・・」
小宮山さんの家の前で彼女がそう頭を下げる。
それから、授業・・・本当にすみませんでした、そう言って眉も下げて・・・
「だからいいんだよ、僕がそうしたかったんだから・・・」
彼女の頬に手を添えて顔を近ずけると、小宮山さんは視線を泳がせ、それからゆっくりと瞳を閉じる。
3度目のキス、ふたりの意志も重なり合う・・・
僕が角を曲がるまでずっと見送ってくれるところは、以前から何も変わらないけれど・・・
僕たちの関係が確実に変わった、初雪の日___