第101章 【ハツユキガフッタヒ】
口内でさらに大きくなる英二くん自身……
ハァ……英二くんのつらそうな吐息……
それはまた英二くんが欲望を吐き出すサイン。
その途端、口を解放され、ゲホッ、ゲホッとむせ返る。
どうして……?、最後まで出されるかと思ったのに……
飲み込めず口から溢れでた大量の唾液は、縛られたこの腕では受け止めることも出来なくて、そのまま胸の方へとこぼれ落ちて行く。
その瞬間、こめかみ付近に感じた生ぬるい感触……
な、に……?
視線を移動させると、髪を滴り落ちるどろりとした白濁の液体が、ポタポタと制服を汚していくのが見えた。
「……ほんと、きったねー女……」
自分だけ身なりを整えた英二くんが冷たい目で私を一瞥すると、ブチッと学ランの胸のボタンを引きちぎる。
それは私がここで付けた、歪んだ胸のボタン……
嫌われても避けられても、鳴海さんと付き合っているときでさえも、英二くんは、それを外さずにいてくれたのに……
「もうお前なんかいらねーよ、クソビッチ……」
私の足元に転がったその胸のボタンを呆然と眺める。
ああ、英二くん……、もう、私なんか必要ないんだ……
英二くんにとって、私は本当のお母さんと同じなんだ……
『小宮山、オレ、小宮山のこと、すげー好き』
脳裏に焼き付いて離れない英二くんの本当の笑顔……
ずっと自分の中で強く大切にしていたものが、足元から崩壊していく。
こんなにも、あっさりと……
まるで砂上の楼閣だったように……
英二くんは固定していた私の手首のリボンを外すと、何も言わずにその場をあとにする。
一度も振り向かないその背中を、ただぼんやりと眺める。
解放された手首に、ふわりと舞い降りる白い粉雪……
すぐに溶けて小さな水たまりへと変化する……
それはこの冬、
青春台に降った初めての雪だった____