第17章 【ユウワク】
「行ってきます」
お母さんとネコ丸に挨拶して玄関をでる。
いってらっしゃい、そう優しく微笑むお母さんに笑顔を見せて歩きだす。
空を仰ぐと澄んだ青空に、白い飛行機雲がまっすぐにのびていく。
私もあんな風にまっすぐ進んでいきたい……そう思って深呼吸をした。
学校で彼にあったら、いつものように振る舞えるかな……
土曜日の彼の寂しそうな笑顔を思い出し、また涙がにじみそうなる。
あの時、英二くんが本当に言いたかったことを伝えようとしてきたらどうしよう……
そう思ったら憂鬱な胸がザワザワと騒ぎ出した。
「……はよ、小宮山。」
昇降口で靴をはきかえていると、突然、声を掛けられてビクッと肩が震える。
不意打ち……そう思って靴箱をむいたままそっと目を伏せる。
おはようございます、そう必死に声にしようとしたけれど、ただ口だけが小さく動いて息だけが溢れた。
私の後ろを通り過ぎる英二くんが、普通にしろって、そう小さく呟いた。
英二くんだって人目に付く場所での態度じゃないじゃない……そう思って必死に涙をこらえた。
教室に入るとそこに英二くんの姿はなかった。
そっと確認するとカバンはあるから、教室には来たみたい……
彼がいない教室に少し安心して、いつも通り本に視線を向けた。
「小宮山さん、ちょっといいかな?」
ふと声を掛けられて顔を上げ思わず目を見開いた。
そこには、にこやかな笑顔の不二くんが立っていた。
「……何か?」
「ここで話してもいいけど、それだとキミが困るんじゃないかな……?」
そう顔色を変えずに笑う不二くんに、ふーっとため息をつくと、わかりました、そう呟やいて席を立つ。
彼について教室をでると、教室内がざわめいてそんな私達を見送った。
何で小宮山さんと不二くんが?そう耳に届いた女の子達の声を、どこか自分とは関係のないことのように感じていた。