第96章 【カンシャ】
「みんな、あんがとね……」
そう呟いた英二くんが私の頭に手を置いて、それからクシュっと握るように髪を撫でる。
振り向きながら彼の顔を見上げると、英二くんはすごく優しい顔で見ていて……
「小宮山はなんも悪くないからさ……オレが小宮山を振り回してばっかで……でも、きっと小宮山の方が悪く言われるから、みんな、守ってやってよ……?」
そんなふうに言われると、もう完全に涙腺崩壊で……
だからって、まだ人も疎らとはいえ、クラスメイトの前で泣くのは恥ずかしくて……
「あ、あの、私、失礼しま……」
「いや、璃音、恥ずかしいからってトイレに隠れなくていいから」
「美沙〜!」
沸き起こる笑い声……
みんなが暖かく見守ってくれる……
私、いつの間にか、こんなに大切なものに囲まれて……
「本当に、ありがとうございます……」
涙を拭うと深々と頭を下げる。
英二くんと出会ってから、大切なものがどんどん増えていく……
大好き……本当に大好き……
「んじゃ、これ、棄てるよ?」
そのこの声にハッとして顔を上げると、まさに菊の花がゴミ箱に棄てられそうになっていて……
あ、待ってください!、そう慌ててそれを制止する。
「あの……せっかく綺麗に咲いてるんですから……」
「璃音、まさか飾るっていうんじゃ……?」
「……やっぱり、ダメですか……?」
だって、花に罪はないし……
確かに仏花だけど、英二くんの菊の字と同じだし……
コンテストが開かれたり、菊人形にして鑑賞される花だし……
東北の方じゃ、品種によっては食べたりするそうだし……
そう小さくなりながらブツブツいう私の様子に、やっぱ、小宮山さんって変わってるよね、そう言ってみんなから失笑される。
「まぁ、璃音がいいならいいんじゃない?、この手の嫌がらせは意味無いって分かるだろうし」
その代わり、机の上はやめなさいよ?、そう言って美沙は菊の花を花瓶に飾ると、後ろの棚へ移動させた。