第95章 【ソラニウカブ】
だっこ、そう言って両手を広げると、小宮山はぷぅっと頬をふくらませて、それから、ぽすっとオレの胸の中に飛び込んでくる。
あー、ほんと、すげー可愛い……!
ギューッと力いっぱい抱きしめると、下についたらちゃんと謝らなきゃダメですよ?、そう言って小宮山は真っ赤な頬を隠すようにオレの胸に顔を埋めた。
小宮山を胸に抱きながら眺めた街並みは、もうすっかり暗くなっていて、キレイな夜景に変わっていて……
さっきの夕焼けとはまた違う景色を、ただ小宮山と黙って眺める。
他のアトラクションはもう運営を終えたようで、賑やかな機械音が一切聞こえないこの状況は、世の中に小宮山と二人きりになったみたいで……
あの瞬く光の元には、その数に負けないくらいの人たちが笑ったり、泣いたりしていて……
普段は、オレたちもその中に当たり前に溶け込んでいるんだけど、この切り離されたふたりきりの空間から眺めていると、そんなこと有り得ないような気がして……
時々、キスをして、ギュッと抱きしめて、またキスをして、外を眺めて……
「英二くん……今日は、ありがとうございました……」
「ん、オレの方こそ、あんがとね……」
お互い口にした感謝の言葉……
いったい、何に対してなのか、はっきりとは分からないけれど、きっとそれはふたりとも同じ理由で……
もうそれ以上、言葉はいらなくて……
また訪れる沈黙……
普段は賑やかな方が好きなオレだけど、小宮山と一緒のときは、この沈黙がとにかく心地よい……
きっと、小宮山はオレと一心同体だから……
小宮山はオレで、オレは小宮山だから……
そんなうまく説明出来ない感覚に満足しながら、その心地良さに浸り続ける。
そしてただ時間の許す限り、小宮山を抱きしめ続けた。