第94章 【ドウカシアワセニ】
「……あっ……」
芽衣子ちゃんと目が合うこと、数秒……
パチパチと大きく2回瞬きし、そのまま中に入ることなく、静かにドアを閉める。
ドアを閉じてからも身動きが取れなくて、頭もうまく働かなくて、何が起きたのか理解出来なくて……
なんで、辞めたはずの芽衣子ちゃんがここに……?
もしかして、あんまり気にしすぎて、オレ、とうとう幻覚見ちゃったとか……?
とにかく、一旦、店に戻ろう……
そうくるりと回れ右をして、数歩、歩みを進める。
「……あの、先輩……」
カチャリ、ドアが空いた音とともにピクっと肩が跳ねる。
恐る恐る振り向くと、やっぱりそれは幻覚じゃなかったようで、無表情の芽衣子ちゃんがドア越しにオレを見ていた。
「……どうぞ……私はもう帰りますので……制服、返しに来ただけですから……」
あ、そっか……制服……
ドアの向こうの机の上には、制服が入っているであろう紙袋……
あ、うん、そう気まずく思いながら、とりあえずスタッフルームへと足を踏み入れる。
入ったところで、尚更、この状況は気まずくて、休憩なのに座ることも出来ず、なんとなく壁際まで進むと、その後はどうしたらいいか分からずに、ただワシャワシャと髪をかき乱した。
そんなオレをよそに、芽衣子ちゃんはバックを手に取ると、失礼します、そう言ってオレにぺこりと頭を下げる。
相変わらず芽衣子ちゃんは無表情で、まぁ、昨日、あんなことがあったんだから、いつものようにニコニコ笑ってられても困るんだけど、でも、とにかく芽衣子ちゃんらしくなくて……
「あ、のさ……」
思わず、スタッフルームを出ようとしていた芽衣子ちゃんを呼び止めた。
呼び止めたところで、なんて言っていいか分かんないんだけど、でも、声をかけなきゃいけないような気がして……