第93章 【ウワガキ】
「あ、あの、英二くん、もしお母さんがいたら……」
玄関の鍵を閉めるとすぐに、英二くんに後ろから抱きしめられる。
もしかしたら、そうされるかな?って思ってはいたけれど、実際にされると恥ずかしさが勝って、全然、心の準備が追いつかなくて……
今日は月曜日、学園祭の振替でお休みの私たちとは違い、もう仕事に行っているのは分かっていたけど、ついついそんな抵抗の声を上げてしまう。
「……小宮山のかーちゃん、いんの?」
「いえ、その……仕事、ですけど……」
だったら、なんも問題ないじゃん?、そう言われてしまうと、全くその通りで……
でも、あの、そう次の言葉を探していると、英二くんは私の唇をキスで塞いだ。
「……ひゃっ、英二くん、冷たっ……!」
「……小宮山は、すげー、あったかいよん……?」
キスはすぐに深いものに変わり、外気に触れてすっかり冷たくなった指が服の裾から侵入してくる。
いつの間にかコートは足元へと落ちていて、お姉さんからお借りした制服も乱されていて……
「あ、あの、英二くん、先に温まらないと……寒かったですよね?、私、暖かいお茶、淹れますから……」
「いんや、お茶より小宮山であったまる」
「ひゃっ!、だから、あの、私が冷たいん……ああっ!」
英二くんは私の抗議の声なんかお構い無しに、冷たい指を這わせてきて……
それはまるで、そんな私の反応を楽しんでいるようで……
「もう、英二くん、イジワルしないで下さい!」
「……だって、オレ、菊丸エイジワルだもんね」
頬をふくらませてみせた精一杯の抵抗に、英二くんは面白くないギャグを言い出したから、それ、他所では言わない方がいいですよ?って真剣にアドバイスしてみたら、うん、オレもそう思う、そう言って英二くんは苦笑いで私から視線を反らした。