第15章 【アマクテニガイ】
「……えい、じ……く、ん……」
突然聞こえたオレを呼ぶ小宮山の声に、心臓がドキンと跳ね上がる。
ヤベッ!っと慌ててアルバムを閉じると急いで本棚へと戻す。
動揺を悟られないように何でもない顔をして、んー、呼んだー?そう作り笑顔で振り返ると、小宮山からはスースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。
なんだ寝言かよ、焦ったじゃん……
ほっと胸をなでおろし、それからふーっとため息をつく。
腕を後頭部で組みながら天井を眺め、先ほどの黒塗りのアルバムを思い出す。
『この見た目で目立ちたくなかったんです』
以前、教室で人それぞれですよ、そう言った小宮山の顔は少し寂しそうで、きっとアルバムの黒塗りもあの顔と同じ理由があるのだろう。
……まぁ、なんとなく想像はつく。
これだけの顔をしていれば、それなりに面倒なことがあるのだろう。
見た目が良いってことは得だけど、その分、負の感情を向けられることだって少なくない。
女の世界なら尚更か……実際、学校でも最近の一部の女子達がむける小宮山への態度はどうかと思う。
小宮山がそこまで気にしてないようだし、下手にかばうと余計酷くなるから放っておいたけど。
第一、面倒はごめんだし。
でも卒業アルバムの写真を塗りつぶすほどのことって……
誰かにやられたのか……?
いや、あれだけ細かいところまでなんだ、もしかして小宮山が自分で……?
ふとわき腹に小宮山の髪が触れたのを感じて視線を向けると、隣で眠る小宮山がそっとオレに寄り添っていて、それからその目から一筋の涙がこぼれ落ちる。
オレ、ほんと小宮山に酷いことしてんだよな……
無理矢理ヤっちゃったことも、愛のない関係を続けさせたことも、隠していたかった素顔を晒させたことも……
そっと小宮山の頭を持ち上げ俺の肩に乗せると、その細い身体に腕を回し包み込む。
瞳から滲んだ涙をそっと親指で拭って、瞼に唇を落とす。
「ごめんな……?」
オレはその日、生まれて初めて腕まくらというものをした___