第3章 【スベテノハジマリ】
「あぁぁぁぁ!!英二ぃーーー!!!」
……英二……?
すぐに絶頂を迎えたらしきその女の人の声に、思わず身動きを止めて振り返る。
まさかね……?
偶然だよね……?
さっきとは違う理由で心臓がバクバクと動き出す。
恐る恐る立ち上がり、そっと茂みの奥をもう一度覗いて見たものは、満足そうにうっとりとした女の人と、それからその向こうに見えた男の人。
外跳ねの赤茶色の髪
ぱっちり二重の大きな目
頬に貼られたばんそうこう
……やっぱり……
菊丸、英二……くん……
そう、それはネコ丸を優しく包み込んでいたタオルの持ち主。
あの雨の日から私の心をつかみ離さない想い人……
はっきりそう認識したその瞬間、ゆっくりと顔をあげた彼と思い切り目があって、やだっ!そう思ったけれど、私の身体はまるで金縛りにあったかのように動かなくて……
動けずにいる私を見つめる彼の口角がゆっくりと斜めに上がり、そしてニヤリと笑う。
その見慣れぬ歪んだ笑顔に背中がゾクッと震えた。
その震えを合図にしたかのように、慌ててその場から走って逃げだした。
足元に落とした本を拾うのも忘れて___