第89章 【カイホウ】
そっと窓辺に移動すると空を眺める。
すっかり暗くなった空に浮かぶのは大きな月……
満月まであと少しのそれは、静かに優しく部屋の中を照らしている。
コンコン
控えめにドアをノックする音。
足音を立てないようにドアまで移動すると、はい、そう言ってそむとノブをひねった。
「……ごめんなさい、お茶でもどうかと思って……リビングに来ない?」
「あ、すみません……目が覚めた時、側に居てあげたいので……」
ゆっくりと振り返る。
月明かりに照らされて、ベッドに横になる英二くんの寝顔は、とても辛そうなまま……
……そうね、起きた時、小宮山さんがいないと、あの子、きっと泣いちゃうわね……、そう英二くんのお母さんは力なく笑った。
『……ゴメン、小宮山……オレのせいで……ゴメン……』
衝撃の告白をした鳴海さんが保健室を後にすると、英二くんはひたすら私に謝りながら泣き崩れた。
大丈夫ですから、そう私は何度も繰り返しながら、その震える身体を抱きしめるしかなくて……
もっと気の利いた言葉を掛けられれば良かったんだけど、こんな時、本当に私の口からは、何の言葉も出てこなくて……
「失礼します、いつも英二がお世話に……」
保健室のドアをノックして入ってきたのは英二くんのお母さん。
みんなの視線が集まる中、床に泣き崩れる彼と私を見て、え?、そう戸惑いの声を上げた。
「……かーちゃん、オレのせいで小宮山が……オレ、もう、どうしたらいいか分かんないよ……」
「ちょっと、どういう事?何があったの!?」
「……言えない……言えないけど……でも……オレ……」
私の腕の中から、顔を上げてお母さんに訴える英二くんは、すごく辛そうで……
だから大丈夫ですから、そう何度も言っているのに、英二くんは全然納得してくれなくて……