第87章 【ホットケナイ】
「菊丸くん、お家の人、すぐに来てくれるそうだから……それまでゆっくり休んでてね?」
不二くんたちと英二くんを保健室のベッドに寝かせると、養護の先生がカーテンから顔を覗かせて、そう優しい笑顔を見せる。
先生、いつもゴメン……そう英二くんが申し訳なさそうに頭を下げると、それが仕事だもの、そう言って先生はまた笑う。
「……小宮山さん、それまで傍に着いていて……って言われなくても離れそうにないわね」
「あ……すみません、その……はい」
先生の言うとおり、ベッドに横になってからも、私も英二くんも、お互い離れようとは思わなくて、ずっと英二くんの横に座ってその手を握りしめていた。
普通だったら人前で……ましてや薄いカーテンの向こうにはお母さんや不二くんたちがいるこの状況で、ベタベタするようなこと絶対したくないんだけど……
英二くんが苦しんでいるんだもん、そんなこと言ってられなくて……
そんな私たちの様子をチラッと確認した先生が、若いって凄いわね、そう苦笑いするとともに、でも大変よ……なんて複雑な表情を浮かべた。
その言葉の意味は、聞かなくてもすぐに理解できて……
先ほどの噂が、もう学園中に広まっているのは確実で……
私は何を言われても構わないけれど、巻き込んでしまった不二くんと、なにより鳴海さんに申し訳なくて……
鳴海さんに申し訳ないのは、噂に巻き込むことだけじゃないけれど……
そう思うと、これからの私たちを取り巻く環境がどう変わるのか、不安で仕方がなくなる。
それに……
不安なのは、それだけじゃない……
こうやって、英二くんと一緒にいたって、イコール、寄りを戻すと決まったわけじゃなくて……
お互い、気持ちは変わっていなかったと確認しあったって、だったら尚更、英二くんが鳴海さんを選んだのには、よほどの理由があるわけで……
その証拠に、英二くん、さっきから一言も話さない……
英二くんはこれから、どうするつもりなの……?
そんな疑問をとても声にできなくて、私も黙って英二くんの隣に座り続けた。