第2章 アルスラーン戦記短編*ハロウィン
「じゃ、私が描くから…ほら、化粧なれしてる分、ね」
自分の顔をキャンバスに見立てるのは結構だが、心臓に悪い。
カナヤは自ら申し出て、被害拡大を阻止したのだった。
「フランケンシュタインなんてどうでしょう」
ナルサスがアトリエとして使用している一室で、手早く化粧を施していく。題材はフランケンシュタインにしたのだが、案の定彼からそれはなんだと質問責めにあい、僅かに持ち合わせた知識を彼に伝える。
元は小説から来ている話で、それは怪物の話である。
その怪物は、墓を暴いて複数の死体を繋ぎ合わせて作られた、実におぞましい容貌の生物だ。
彼自身に名前はなく、作り手であるヴィクター・フランケンシュタインから来ている。
怪物のそのおぞましい容貌とは裏腹に、優れた知性に優しい心を持ち合わせていた。
しかし余りに醜いその姿に絶望した作り主は、彼を捨ててしまうのだ。
「…なんとも凄まじい物語だな」
「あっ、動かないで、ずれる!」
簡単に掻い摘んで話すと、ふむ、となにか考えるようにして続けた。
「人間は中身がモノをいうが、やはり見た目と言う事か。どの世界も変わらんものだな」
「ナルサス…」
その怪物は自分の母たる作り主に拒まれ、忌み嫌われ、紆余曲折の末に死んでしまった作り主の遺体を見たあとに、自らも後を追うように死を望んでしまうのだ。
人間の身勝手な欲から生まれた彼は、その最たる犠牲者と言っていいだろう。
「ただのおとぎ話だが、胸が痛くなるな」
「なんか、ごめんね、重くなってしまった」
シン…とした部屋に灯る明かりが揺れる。
ふいに真剣な目でカナヤを見ると、ポツリともらした。
「カナヤもやはり、見た目が大事だと思うか?」
「…そりゃあ、見た目を気にしないというのは嘘になるけど。第一印象で7割は決まるとかいうけど、私はそれだけじゃないと思うから拒んだりはしないよ。それで繋がるはずの縁が繋がらないなんて、勿体ないしね」
その言葉は嘘ではないと思う。彼女のこれまでの他人との関わり方を見てきても、見た目を気にした付き合いをしていないと感じるのだ。
敵にでさえ慈悲深い。分け隔てないそれは、いっそ危険だと感じる程だ。
「だから、あの銀仮面の男とも平気で馴れ合えると言う訳か」