第1章 ちょっと前の話
「おにいちゃん、明日はなんのひでしょーか」
あどけなさの残る幼い声が語りかける
「えーっとー…あ、明日は唯の誕生日だ!」
だから俺は覚えていてもわざと考えるフリをして、思い出したかのように手を打ち答えたのだ
そしたら「せいかーい!」なんて嬉しそうに言いながら俺の元へ掛けてくるものだから、俺もそんな姿を見て微笑ましくなって「何が欲しい?」なんて聞いてやった。
すると、うーんと一唸りしたあと
「おっきなくまさん!」
と、小さな手をいっぱいに広げて楽しそうに答えて。
「お兄ちゃんが買ってやるからね」
と言って頭を撫でてやると、
「本当!?」
と、
「約束だからねー!」
と、きゃっきゃと話した。
「うん。じゃあ忘れないように指切りしよっか」
俺がそう言って小指を出すと、彼女も小指を出し俺の指に絡ませて、『ゆーびきーりげーんまーん』と約束を忘れないためのおまじないの歌を歌った。
「明日がたのしみだなあ」
「はやく明日にならないかなー!」
待ちきれないように言う少女を見て、
「寝れば明日なんてすぐ来るよ」
と言ってやると、彼女は嬉しそうに「そっかあ」と。
ああ、幸せだ。
早く明日にならないかな。
明日は彼女の誕生日なんだ。
早起きしてプレゼントを買いに行ってやらないと。
明日はきっと忙しくなるぞ。
――――――――――そう、普通の明日が普通に来ると この時はまだ信じて疑わなかった。