第9章 ライバル、梟谷学園
「……あの、すいません。」
そのとき、黒尾の後ろからまた別の男が声をかけた。
「お、赤葦じゃん。どうしたの。」
黒尾が振り向くと、凪沙からもその肩越しに赤葦の姿が見えた。
「うちのマネたちが、ドリンク追加しにいくから音駒のマネさんも呼んできてくれって。」
無表情のまま彼は凪沙に目を向けた。
「あ、はい。すぐ行きます!」
凪沙は助かった、と言わんばかりの勢いで皆の輪から抜け出た。
「こっち。」
赤葦がそう言って歩き出すので、凪沙は彼の後に着いていった。
体育館の裏に回って、みんなの視線から逃れてようやく赤葦は振り向いた。
「ああいうのあんまり真面目に相手しなくていいよ。あと、マネが呼んでるっていうのもウソだから。」
「え。」
「孤爪が心配してた。黒尾さんがすぐからかうって。」
「赤葦余計なこと言わないでいいから。」
日陰に一人で座っていた孤爪が声を出した。
「あ、研磨。」
「ナギもいやだったらいつもみたいにはっきり言いなよね。なに猫被ってんの。」
苦笑いする凪沙に、孤爪はため息をついて靴ひものゆるんだシューズを脱いだ。
休憩のときにはそうして足を休めるらしい。
「あの、ありがとうございました。」
赤葦にお礼を言う。
「俺二年だからタメだよ。」
「え、そうなの?副部長って聞いたからてっきり3年だと……。」
「よく言われる。」
赤葦は大して気にしていない様子で、ふっと笑った。無表情だった彼のそんな表情に凪沙は見入る。
(うわ、イケメン……。)
孤爪に、ふたりとも座れば?と言われて、三人は並んで座った。