第8章 人見知り同士
「あ、あの!」
「トラなら大丈夫。ああ見えて暴力とかしないから。相手も乱暴ではなさそうだったし。」
足を止めずに早口でそう言う彼の背中に、凪沙は声を投げる。
「ありがとう。助けてくれて。あと、ごめんね!」
「なにが。」
少しだけ彼の歩みが遅くなる。
「朝、あんな話きかせちゃって……。」
「別に謝ってくれなくていい。」
「でも、私、孤爪君のことネクラとか気持ち悪いなんて思ってないから。」
下駄箱のところで、ようやく孤爪は足を止めた。
「クラスでは大人しい孤爪君が、バレーやってる時、別人みたいにみえたの。
私、まだ素人だからうまく説明できないけど、すごい選手なんだな、みんなに頼りにされてるんだなっていうのは分かったから。
だから、友達が孤爪君のことあんな風に言うの悔しかったけど、なにも言ってあげられなくて……ごめんね。」
それを聞いて、孤爪は靴をはきかえながらぽつりとつぶやく。
「……研磨でいい。部活のみんなはそう呼ぶから。」
凪沙はぱっと顔を上げて、彼に向かって口を開く。
「研磨、ありがとう。」
「それ、あとでトラにも言ってあげてよね。たぶん泣いて喜ぶから。」
早くしないと5限遅れるよ、と言って孤爪はさっさと教室へ向かってしまった。
「あ、待って。研磨、待ってよ。」
凪沙は慌てて靴を履きかえて孤爪の後を追った。
「ナギうるさい。静かにして。」
そう言われれば、凪沙はなぜか嬉しくなって笑顔がこぼれた。