第7章 新生活
「ほーんと、びっくりしたわよ。
今の学校はさすがに遠くなるから転校は仕方ないかなと覚悟してたけど、
それでも都心にある同系列校あたりに通うと思ってたのに。
まさか凪沙本人が共学の都立音駒に行きたいだなんて。」
広子は何度目か分からない台詞を口にする。
「もう、ママしつこい。そんなことより手、動かしてよー。
引っ越しの荷物全然片付いて無いじゃん。」
ダンボールに囲まれた部屋で、凪沙は口をとがらせた。
春休みの初日、凪沙と広子は夜久の家に引っ越してきた。
「そうだなー今日中に寝るスペースくらいは確保しないとなー。」
衛輔も荷ほどきを手伝う。
「衛輔、今日は部活休み?」
「午後から。それまでは手伝うよ。」
「衛輔君ありがとう。学校でも凪沙のことお願いね。」
広子にそう言われ、衛輔は頷く。
「俺もびっくりした。まさか凪沙がうちに通うことになるなんてな。」
分解された机を組み立てながら、衛輔はそっと彼女に耳打ちする。
「お嬢様の気まぐれじゃなきゃいいけどな。」
その意地悪い口調に、凪沙は軽く睨みつける。
「気まぐれじゃないし。
だって、衛輔が学校とか部活の話してるの、楽しそうだなって思っちゃったんだもん。
どうせ学校変わるなら、ちょっとでも知ってるところがいいし。
それに……衛輔いたほうが心強いし。」
その言葉に、衛輔は少しドキリとする。
(やべ……だめだめ、これから一緒に住むんだから。落ち着け俺。)
そう自分に言い聞かせて、家具の組み立てに集中しようとする。
そのとき、衛輔のポケットに入っているスマホが鳴った。
「……黒尾だ。なんだろう。ちょっとごめん。」
作業途中の家具を凪沙に預けて、衛輔は部屋を出た。