第6章 ひらいて
「でも、俺のことはもう慣れたじゃん。」
「まあね。衛輔はもう平気。」
頷いて彼に向かってにっと口角を上げた。
「俺も。凪沙にはもう慣れた。いつでも兄妹になれる。」
「……。」
凪沙は黙ってお湯につかった足元を眺めた。
「再婚、してもいいかなって思ってる。親父たちのいうように、春休みに。」
「……衛輔まで、そういうこと言うんだね。」
聞きたくない、という風に凪沙は顔をそむける。
「今は、まだちゃんと説明できないけど、絶対そのほうが良い。
じゃないと凪沙も後悔することになる。」
「どういう意味?」
話しの見えない凪沙が訝しげに聞く。
「広子さんも、親父も、俺も、凪沙のことすごく大事に思ってるから。
今はそれしか言えないけど、後々ちゃんと分かるはずだから。
だから、俺のこと信じてくんないかな。」
「衛輔の言ってることよく分かんない……」
凪沙は小さな声で俯く。
「今は分かんなくてもいい。話せる時が来たら全部話すから。だからお願い。」
凪沙の顔を覗き込んで、精一杯の願いを込めて、衛輔は彼女に訴えた。
そのまっすぐな瞳をじっと見つめ返す。
数秒間そうしてから
「約束、忘れないでよ。雪の日のやつ。」
すぐ隣にあった彼の手を握る。
「もちろん。」
力強く、彼女の小さくて冷たい手を握り返して衛輔は頷いた。
「あとね、私からも衛輔にお願いがあるんだ……。」