第3章 雪の日のこと(前篇)
その日以来、4人はそろって会うことはなかった。
理由は、凪沙がそれを拒んだから。
そんな調子で12月のクリスマスをシーズンを迎えてもこう着状態は続いていた。
「どうしてそんなに反対なの?夜久さん良い人でしょ?凪沙も懐いてたじゃない。」
広子が困り果てる。
「良い人だけど、再婚は嫌。どうしてもするなら私は高校の寮に入るから。ママにも夜久さんにも一生会わない。」
「そんな無茶苦茶言わないで。」
朝ごはんを食べながら、凪沙はスマホをいじる。
「もしかして衛輔君、相性悪いと思ってる?良い子なのよ。
ちょっと元気が良すぎるけど、男の子だものね。だからまた4人でごはん食べに……。」
「じゃあママと夜久さんと、そのモリスケ君と三人で暮らせばいいでしょ。
私は寮に入ります。」
「凪沙~そんなこと言わないで。ママは凪沙が一番かわいいんだから。」
そう言って広子は凪沙の頭を撫でまわす。
「はいはい。ママ、今日から出張だったよね。軽井沢だっけ?」
凪沙はカレンダーを見て思い出したように言う。
「そうよーリゾートウエディングってやつ?
流行ってるみたいね。この寒いのにわざわざ寒いとこでよくやるわよねえ。」
すると凪沙はスマホで何かを調べ始めた。
「……お土産、木イチゴのジャムがいい。」
そう言って画面を広子に向ける。
「うわ、たっかい……。でもおいしそうね。
ついでにおいしいパンも買ってくるから。」
「やった!」
凪沙は喜んで手を叩く。
「そのかわり、また4人でごはんだけでいいから……。」
「考えとく。」
「お願いね。」
広子の声を背後に聞きながら、凪沙は制服に着替える。
テレビを見ていた広子が声を出す。
「あらやだ。今夜から雪だって!
凪沙、寄り道しないで帰ったほうが良いわよー。」
「あー、うん。スマホで見た。ママも気を付けてね。電車止まるよ多分。」
もう、困るわあ、とさほど深刻そうじゃない口調で文句を言いながら広子は化粧を始めた。
「いってきまーす。」
「いってらっしゃーい。」
凪沙は母の声を背中にうけながら家を出た。