第2章 アリスと白うさぎ*縁下力
「…そんな直球で…可愛いって言われたこと…あんまりなくて…」
え、何それって俺めっちゃグイグイ行くやつみたいになってんじゃん!
頭の中で色々とこんがらがった縁下は視線をそらした。それを見た華楓もすかさず下を向いた。
「まぁ、アリスはもっと可愛い子がやるんで…というかうさぎ好きなんでむしろ嬉しいし…」
何を言っているのか自分でも訳が分からなくなった華楓は上を向くタイミングを逃し、二人の間でしばらく沈黙が続いた。すると華楓の頭に縁下が手を伸ばした。
「…!」
縁下のその手にすぐに気づいた華楓は顔を上げた。そして縁下に目を向ける。
「華楓ちゃんなら白うさぎでも何でも上手くいくと思うよ。だから、一生懸命頑張ってね」
そして縁下は華楓の頭を優しく撫でた。それに安心したのか嬉しそうに華楓は微笑んだ。
「続き…読まなくて大丈夫?」
「あ、大丈夫です。あとは家に帰ってから読みます。それと…」
華楓は自分の頭の上にある縁下の手を取り袖を優しく掴んだ。
「もう読みながら歩きはしませんけど、またこうしてていいですか?なんかこの方が…その…落ち着くというか…安心するというか」
「…うん。いいよ」
微笑みながら華楓に言った。
また歩き出した2人。会話がスムーズなのは2人が会話をすることに慣れた証拠、というべきなのか。
「縁下さんって…」
「…何?」
「アリスみたいですよね?」
「え!?まって何で何で??俺がアリス!?」
華楓の言う言葉に毎回驚かされているのではないかという縁下。この場合は誰でも驚かずにはいられなくても可笑しくはないが。
「なんか…夕とか田中さんに振り回されてる感じが迷惑かけられてるアリスみたいだなぁ…って」
「ハハハッ…じゃあ俺は華楓ちゃんのこと追いかけて不思議の国に迷い込むのかな?」
「そうなりますね」
2人は今日の会話で一番笑った。夜の街に響く2人の声。この楽しい時間が2人にとっての不思議の国の中での出来事なのかもしれない。
End