第3章 逆らいの条件
コンコン
『岩ちゃーん、終わったー?』
扉越しに爽やかでいつも通りの声が聞こえた。
岩泉先輩は私の頭を撫でるとただ一言。
「気持ち良くしてもらえよ」
それだけ言った。
私が快楽に溺れて奴隷になっても、一番攻めないような言葉。
ごめんなさい……。
愛おしい後ろ姿を見つめ、岩泉先輩と入れ違いに入ってきた及川先輩に目を移した。
見た瞬間、わかっちゃった……。
岩泉先輩、ごめん。
及川先輩の髪からはまだ乾いていない滴がポタポタと落ちて、良いシャンプーの香りがする。
色気とか大人びた視線とか……。
一瞬でさっきまでの愛おしい空気を壊すような及川先輩一色のムードに耐えられそうにもなかった。
私、我慢できない……。
「俺のこと見つめてどうしたの?惚れた…?」
駄目っ…、駄目……。
近づいてくる先輩にベッドの隅まで逃げ込んだ。
これ以上近づいたら駄目だ。
飲まれちゃう。
漂うシャンプーの香りが私を惑わせて行く。
「逃げないで」
ベッドがギシッと小さな音を立てる。
及川先輩は、少しずつ私に近づいて逃げられないように壁に両腕をついて私を捕まえた。
「ねえ、キスしてほしい?舌も入れる?ちなみに、君が頼まなくても十分後には及川先輩からキスしてあげるよ」
十分間この人を前に耐え続けろって……。
無理に決まってる。
そんなの、地獄だ。