第13章 敗北の慰め
及川side
振り返った先のシホは烏野のジャージを着ていて、瞳の先に俺のことは映さない。
烏野の負けに泣きそうな顔をしていた。
勝ったのになんでこんなにむしゃくしゃする……?
シホは俺のものだったはず。
先に歩いていった青城のメンバーの背を追いながら、勝利の喜びよりも胸につっかかる感情の整理にとらわれる。
俺の中でのシホは、なんだかんだ言っても俺たちの味方だと思ってた。
別にセックスしてるからとかそういうのじゃない。
ちゃんとした理由がある。
シホが俺たちを裏切った日に、シホは確かに自分の口で青城に来てればよかったって言ったんだ。
マネージャーをさせようとして遊んでたシホを引っ張って来た時も、羨ましそうに練習を見てた。
青城のマネージャーをしてたら…ってそんな表情をしてたんだ。
スタメンとも仲は良さげだし、岩ちゃんのこともかなり気に入ってるみたいだし。
俺たちが勝てば烏野には申し訳なさそうに、でも心からの笑顔で「おめでとうございます」って……。
そう言うんじゃないかって思ってたのに。
烏野を応援していたのか聞けば当然のように頷かれる。
シホの気持ちが離れていくのがわかる。
セックスが関係ないのはわかってる。
それでも、これを始まりにしてバレー以外の様々なシホの関心が俺から烏野に移ってしまうんじゃないかって疑念が拭えない。
「おい及川、お前なんつー顔してんだ。俺ら勝ったよな?」
「だよな。腹でもいてえの?」
追いついた青城のメンバーの中で、気が立ったままの俺にマッキーとまっつんが話しかけてきた。
「別に。そんなんじゃない……」
「スネ夫か?」
「てかやっぱあれじゃね?シホちゃん関係」
「あー、岩泉も機嫌悪そうだったしな」
それもそうだ。
岩ちゃんだってシホのことを可愛がってるし、シホを奴隷にした最初の頃から一緒だし。
「岩ちゃんどこ」
「あー、あっち?」
指さされた方向に向かう。
いくらシホのこととはいえ愚痴らないとやってらんないよ。