第63章 月
偽の雪は静かに庭を歩き
人目に付きにくい
庭の奥に向かって歩き続けていた
しかし時折、立ち止まると辺りを警戒して
見回していた
それを見ていた錦戸は
敵の歩みを見て考えていた
錦戸「たしか、あの先には・・・・」
偽の雪が歩いている先にある場所を
錦戸は見当が付いてきていたのだ
雪は辺りを警戒し続けながら
庭の奥に隠れるようにある
井戸の前にやってきたのだ
錦戸「やっぱり井戸か・・・・」
錦戸は昔
自分がこの井戸に閉じ込められた事を
思い出しながら敵を見下ろしていた
井戸の前で偽の雪は
周りを一度
確認すると躊躇なく飛び込んだのだった
その姿に錦戸は屋根の上で考え込んだ
錦戸「あの井戸に何があんねん・・・・」
何故
偽物の雪があの場所に来たのか
全く分からなかったのだ
しかし、錦戸は思っていた
あれだけ警戒しているという事は
敵は知られたくない事だという事を
これは大きなチャンスだと
錦戸は思った
不敵な笑みを浮かべると
ひらりと空気のように舞い降りて
井戸の淵に颯爽と立った
錦戸「この奥に何を隠してるんやろな・・・」
そう言うと深紅の瞳で
井戸の底を静かに見つめた
井戸は深いために
奥は真っ暗で何も見えはしない
敵はそこで何をしているのか
物音すら聞こえてこない
錦戸はため息をついた
いつもの自分なら迷わずに飛び込んだだろ
しかし
これは勘というのだろか
絶対に飛び込むべきでないと
妙な胸騒ぎがしていたのだった
錦戸は静かに井戸の淵から降りた
そして頭をかくと
静かに屋敷の方に向かって歩き出し
一人苦笑いをしながら
錦戸「まぁ、俺も成長したってことやな」
そう言うと
綺麗な月を見つめると
この事実を伝えるべく
仲間の元に向かったのだった