第5章 【スタッフ:まま兄】
縁下力は困惑していた。
「美沙、これ何だい。」
尋ねるその手には義妹の部屋に落ちていたルーズリーフの1枚が握られている。聞かれた義妹の美沙は愛用の大型ノートパソコンから目を離さずにしれっと言った。
「絵コンテ、んー、もどき。」
「いやわかるけど。」
力はため息をついた。ルーズリーフの左半分には乱雑に描かれた4コマ漫画みたいな枠の中に物凄く簡略された人物らしき何かや図形が描かれており、右半分には再生時間とか何やら指示みたいなものが汚い字で書き込まれている。
"場面切り替え クロスフェード"
"背景は素材集 ***jpg使う"
"画像横移動 グラデーションかける"
"元画像は黒 明度反転で白く"
などなど。
「絵の下書きを紙にしてるのは知ってたけどいつの間にこんな事まで。」
しかし縁下美沙ことハンドルネームままコはそれには答えず動画編集ソフトのタイムラインとにらめっこしながら何やらカチカチとマウスを動かしていた。
「んー、やってみたけどこの演出微妙やなぁ。場面切り替えをぼかしにしてみよかなぁ。」
ブツブツ言う義妹、力はつい横から画面を覗き込む。
「えーと、場面切り替えぼかしに変更、ざっと動かしてみよ。うーん、悪(わる)ないけどなんかちゃうなぁ。」
「お前そこはもうクロスフェードにしたら。多用してるから気にしてるんだろうけど一番合ってると思う。」
「流石兄さん。」
「デジタルは専門じゃないけどな、ってそーじゃなくてっ。」
ここまでやっといて今更突っ込んでも無駄ではあるが一応力は話を戻す。
「前からこんな風に絵コンテみたいなの作ってたのか。」
美沙はううんと首を横に振る。
「ここ最近の2、3作から。」
「逆に言えば既にあの辺からやってたのかよ、お前何者。」
「実写で谷地さんとか日向の妹ちゃん巻き込んで映像撮っとる人に言われとない。」
力はうっと唸る。残念ながらそれは美沙に言われても仕方がない。
「それはともかくとしてホント、好きなことについてはまめだな。」
「ここんとこどっか描いとかんと思いついた事忘れてまうねん。私忘れっぽなったんやろか。」
まだ15歳なのに何を言うと力は思う。
「多分違うと思うけど、そうだなぁ。」