第35章 【三度目の終わりと少しの未来の物語】
それから何年も何年も経った。
薄暗い部屋の中で、成人はしているがまだまだ若い男女がよりそってベッドの上に座っている。
「兄さん。」
「美沙。」
よりかかる何年経っても細っこい肩を抱き寄せて縁下力は一線を越えて愛している義妹の名を呼ぶ。義妹はそおっとそんな義兄に頬寄せるがその雰囲気は15の少女だった頃とあまり変わらないかもしれない。
「美沙、お願いがあるんだ。」
おもむろにいう縁下力に美沙は何、と尋ねる。
「高校の時、バレー部のみんなと夏祭りに行ったの覚えてるか。」
「うん、最後えらいことになったねぇ。青城の人ら混じるし花火見とったらバレー部のみんなは私ら置き去りにして勝手にニヤニヤしとったし。やっちゃんまで止めへんねんもん、かなんかったわ。」
「青城のはお前が連れてきたんだろ。」
「知らんもん、岩泉さんはともかく及川さんと他の人らは勝手に。」
「まぁそれは置いといてさ」
話が逸れそうになったので力は戻す。
「母さんに二人で写真撮られてから家出た時に俺が言ったの覚えてるか。」
美沙は大きく頷いた。忘れるはずもない。あの時、義母に冗談で撮った写真が若夫婦みたいだと言われてから家を出て祭り会場への道すがら力は言ったのだ。
"もしホントに俺がそうなりたいって言ったらお前、受けてくれるかい"
美沙はあの時言った。
"うん、受ける。"
「じゃあ改めて言うね。」
あれからすっかり成長した力は言ってそっと美沙の顔を両手で包み込み、大人になってもまだ少し逸らしがちなその視線を逃げられないように固定する。
「美沙、」
一旦息を吸ってから力は言った。
「兄妹じゃなくて本当に俺の美沙としてずっと一緒にいてくれるかい。」
うっかり勢いで言ってしまったようなあの子供の頃とは違う真剣な力の眼差し、美沙は逃げなかった。自分も真剣に視線を合わせて美沙は頷く。
「ずっとおる。せやからずっと私の」
一瞬兄さんと言いかけて美沙は息を吸う。
「ずっと私の力さんでおって。」