第4章 手を伸ばして*グリムジョー
ムカつく奴だ。
こいつの顔を見ているとイライラする。
可愛い奴だ。
こいつの顔を見ていると愛してるって実感する。
俺は不器用なんだよ。
そうこいつに伝えたら、顔に唾をかけられ力いっぱい顔面を殴られた。
「この嘘つき!私のことなんてこれっぽっちも愛してないくせに!」
俺を罵るシーナの顔が瞼の裏に焼き付いて、俺を更に追い詰める。
「っ!テメェは黙って俺に仕えてれば良いんだよ!」
何故、本当は愛してるって言えない?
心理と口から出た言葉の矛盾と、シーナの俺に対する態度に、一瞬で頭に血が上った俺は、固く握った拳でシーナの顔を殴りつけた。
バギッ!
耳に響く痛い音がして、シーナは顔の左半分を手で覆って床に倒れ込んだ。
シーナの右目から流れるとめどない涙。
悔しさに唇を噛んで、俺を見上げて睨む。
「…ホント糞野郎…どこまで私を苦しめるつもりなのよ…!」
シーナはどれだけ俺に殴られても、もう逃げなくなった。
いや、逃げないように、引き留めるために俺が殴るからだ。
もっと俺を憎め。
俺のことしか考えられない女にしてやる。
歪んだ愛情。
だけどこいつは俺の暴力が怖いから俺のそばにいるんじゃない。
俺の過去を知っている。
俺の傷を癒したいと、こいつは初めに言った。
俺には自分しかいない。助けるのは自分だ。
そう自負しているから、俺から離れない。
俺はそのことを知っている。
知っていてもなお、知っているからこそ、俺から去って欲しくない。殴って脅迫して、束縛する。
愛してるんだよ。
これがお前への愛なんだよ。
俺のことが憎くてたまらない顔をした、シーナの首を掴んでベッドに放り投げた。