第17章 【夜シリーズ】イロコイ【緑谷出久】
「もう行っちゃうんですか…?」
「ごめんね、指名入っちゃったから。じゃ。」
私に背を向け、無慈悲に去ってしまう男の背中。
ぐっと唇を噛み締めて、沈んだ心に溜息をつく。
賑やかな男女の声が飛び交うこの場所は、歌舞伎町で最も有名なホストクラブーーーyuuei。
ここのホストは全員揃いも揃ってイケメンで、華やかな世界に生きる色男達だ。
(私みたいな何も無い女なんて…そりゃ相手にしないよね…)
見た目はどこにでもいそうなただのOL。
地味で女子力も全然無いし、ごくごく普通の家庭で育ったパンピーだ。
だけどここに来て、私は好みの人を見つけた。
その人に会えるだけで幸せ…と思っていたけど、私が大したお金を使わないから、他の指名が入ればすぐにポイだ。
そういう場所だって分かってるのに、募る悲しみはまるで鉛のように私を押し潰す。
(何よこんなちっぽけな事で…!お金目的のホストに気に入られなくたって、私は幸せなんですーっ!)
精一杯の強がりを心の中で叫んでみても…やっぱり虚しい。
ヘルプの人と話すのは苦手だから、店に来た時から付いてもらってないし…完全にボッチになってしまった。