第11章 最狂*タクミ・アルディーニ、葉山アキラ
タクミはナイトテーブルに置かれてあった小瓶を手に取り、蓋を開けて中の液体を口に含む。
その状態でベッドに近付き、れんの首を掴んで唇を重ねた。
「んっ!」
無理やり液体を口移しで飲まされ、舌に残る甘ったるい後味にれんが眉を顰める。
赤く染まったれんの耳に口を寄せ、タクミは一段と低い声で話し始めた。
「君に恨みは無いんだ。ただ、過去に抱いた人と一悶着あって、処女は苦手なんだ。」
感情の起伏がタクミに全く見受けられず、れんの知っている表情豊かな彼はもうそこにいなかった。
れんを押さえつけている葉山に視線を送り、タクミが冷めた笑みを浮かべる。
「葉山は処女の方が好きだって言うから、依頼したんだ。快く引き受けてくれて嬉しいよ…葉山自体は嫌いだけど。」
「あ?恩人に喧嘩売るのかよ。」
「好きに捉えたらいいさ。喧嘩だと思うなら今度俺と食戟しよう。あと俺が君の恩人だ。」
「ホント変わんねぇな…お前もいい加減―――――」
こんな状況なのに、二人の会話はいつもと変わらない。
自分だけがおかしいのか…?とれんの頭が混乱してくる。
倒錯しきった環境下で思考力が低下し、残った理性が死にもの狂いで回答を導き出す。
違う…私はおかしくない…
この二人が、狂ってる…逃げなきゃ…早く…
れんは再び体を動かすが、逃げようとしている動作に気付いた葉山が拘束する力を強める。
「離して、ん…!」
「!…まだそんな元気あったのかよ…」
やたらと体温の上昇が激しいのは自分がもがいているからだ、とれんは思っていたが、どうも違うとタクミの手から顔を出している瓶を見て感じた。
あの甘い味、火照る体、葉山に触れられている部分から伝わるくすぐったい快感…
媚薬だと頭の片隅で囁いた途端、れんの吐く息の色が変わった。