第11章 最狂*タクミ・アルディーニ、葉山アキラ
「どうして…?」
れんはこの日、付き合っていたタクミとハジメテを経験するはずだった。
胸を躍らせて、ちょっぴり緊張して…身だしなみに力を入れてタクミの家にお邪魔したのに…。
通された寝室でれんが目にしたのは、我が物顔でベッドに居座り、本を読む葉山の姿だった。
思わず口から零れてしまった独り言に、葉山が本から顔を上げる。
呆然としているれんの顔を見て、葉山がタクミに問いかけた。
「…おい、何も説明してなかったのか。」
「したら来ないだろ。」
「それもそうか。」
よっこらせ…と葉山がれんに歩み寄り、華奢な肩を掴む。
「きゃ…!」
反射的にれんが葉山の手を振り払い、タクミの後ろに隠れる。
葉山もタクミも涼しい顔をしていて、唯一れんだけがまともな反応をしているように見えた。
何が何だか全く状況が理解できないれんは、震える手でただタクミにしがみつく。
「タクミ、どういう事…?」
「…少し、トラウマがあるんだ。」
れんを背中に貼り付けたままベッドに近付き、重いトーンで話しながらタクミが後ろを向く。
タクミと視線が絡み合った瞬間、れんは震え上がった。
(いつもと、違う…怖い目…)
澄んだ水のように綺麗だった瞳が、凍てついた寒々しい色をしているように見えた。
謎の強い力に体の自由を奪われ、指一本すら動かない。
れんの手を引いてベッドに着地させ、猫のように背中を丸めるれんを見下ろしながら、タクミは葉山にアイコンタクトをした。
「陽月、悪く思うなよ。」
「は、葉山くん……!?」