第31章 約束は守りましょう
私はトシの前に立つと、笑って見上げた。
『この前言ったこと・・・・あれ、嘘だからね。実際、トシのこと好きだったし、一緒に居られて楽しかった』
土「・・・・・・・」
『気持ち悪いよね!未練がましい・・・・ね。でもさ、言っときたかったんだ!ありがとうって!』
土「・・・・・・すまねぇ」
今まで無言だったトシの口から零れた言葉は驚くほど悲しかった。
土「ミツバのときも・・・・そうだ。一番苦しい時に居てやれなくて、すまねぇ。俺も・・・おめェのこと・・・・愛・・・・ぐっ!?」
私はトシのみぞおちを軽く殴った。
土「何すんだ!?」
『そんなこと言わないで!』
土「はぁ?」
『そんな言葉・・・・言わないで・・・・お願いだから』
やめてよ。また泣いてしまう。
離れたくない。一緒に居たい。でも・・・・出来ない。
土「瑠維・・・・・」
私はトシに抱き寄せられた。煙草の混じった匂い。苦いのに・・・・甘くて・・・・優しくて。
『私のことは・・・・お願い忘れて?私よりも、もっと美人で、気立てが良くて、おしとやかで・・・・・・そんな人と一緒になって・・・・』
土「・・・・・ああ」
『ごめんね・・・・ごめん・・・・・ごめんなさい』
土「謝らなくていい。ずっと・・・・・苦しかったよな?ごめんな。」
『ううん・・・・・ありがとう、トシ』
私は顔を上げ、思いっきり笑った。
トシも微笑むと、どちらともなくキスを交わした。
それは短くて、軽いものだったけど・・・・・十分だった。
愛してる
この言葉は絶対にトシを絡めつける鎖になると思った。だから私は言わなかった。だから・・・・
ありがとう
この言葉で補ったのだ。
三十分はあっという間に過ぎ、処刑の日になった。
目の前には神威。
神威「言い残す言葉はある?」
『じゃあ・・・・・・』
私は微笑んだ。
『家族として・・・・愛してたよ?神威』
神威は驚いたような表情をしたが、すぐに元に戻した。
神威「殺れ」
私の意識はそこで途切れた。
二十数年の命だった。でも不思議と穏やかだ。
ありがとう、みんな
私はそう口を動かした。