第16章 奇跡は起きない
「(…中学時代のテツ君のデビュー戦を思い出すわ…)」
試合は再開されるが、洛山はいまだに困惑した表情のまま。
「オウコラ…木吉ぃ…テメェらの血は何色だァ!!?」
「え?」
「え?じゃねぇわ!あのガキこっぱ微塵にされんぞ!!もはやホラーだよ!怖くてこっちが見てらんねぇ!!悪いことは言わねぇから、もっとマシな奴に代えろ!赤司にそーゆー冗談は通用しねんだって、マジで!!」
永ちゃんの大きすぎる声は、こちらまで全部筒抜けだ。
まあ、言いたいことはわかる。
私だってこんなとこで、相手チームの知らない人とはいえ、こっぱ微塵にされるところなんて見たくもない。
その頃、降旗君は征十郎にどうにかくらいつこう、とプレッシャーをかけていた。
それでも征十郎に通用するわけもなく、いとも簡単に降旗君を抜いた。
だが、そのヘルプ…火神が早かった。
「あ…そう言うことだったのね」
降旗君の位置、火神のヘルプから誠凛の狙いを理解した私が声を漏らした。
「あの位置だと、征十郎はアンクルブレイクができないわ」
「…!葉山へのヘルプも早い…わざと抜かせて…!」
私がそう言うと、コーチも理解したのか、驚嘆の声をあげた。
黛さん封じに征十郎を中へおびき寄せる…これこそ誠凛の真の狙い。
「うむ…なかなかやるようだ、誠凛の監督は」
監督も感心したように誠凛のベンチに目をやった。
まんまと罠にかかり、中で火神と向かい合った征十郎だったが、前後の緩急のみで火神をアッサリ抜いてレイアップのフォームに入った。
だが、火神もそれに追いつき、放たれたボールに指をかすめる。
結局、リバウンドに出た永ちゃんに押し込まれ、洛山の追加点にはなったが征十郎の顔つきは思わしくない。