第16章 奇跡は起きない
すると、その時。
『誠凛、選手交代です』
こんな時に?と思えるタイミングで誠凛ベンチから出てきたのは12番の彼。
「藍川…彼は…その、誰だ?」
隣に座るコーチが問いかけてくる。
「誠凛の12番…確か…降旗光樹、1年PGです。バスケを始めたのは高校からで…えーっと、そのほかは特に…」
「…そっか。いや…え?」
「は?」
コーチに彼の説明をしている間に、マークチェンジ。
黛さんに『鷲の目』を持つ伊月さんが付く。
ここまでは理解できる…んだけど…。
ガチガチの12番、降旗君はなんと征十郎の前に。
「「「何考えてんのおぉおー!?」」」
レオ姉、コタちゃん、永ちゃんは叫んだ。
そりゃそうだ。
私も、多分征十郎ですら何故こうなっているのかわかっていない。
当の征十郎に目を向けると、わずかながらに困惑の色を見せていた。
「よ、弱すぎてどうしよう…って顔をしているわ…」
「……」
何か秘策でもあるのか、と思考を巡らせてはみるものの、目の前の状況をいまだに「夢ではないか」と信じられない、と言ったことから、上手く考えが思い浮かばない。
というより、この現実を認められない。
「征ちゃん、スローイン!ボール入れるわよ!」
「ああ」
「まっ…あっ」
「……」
レオ姉の声に反応した征十郎が動くと、それに合わせて降旗君も動いた。
…はずだったのに、足をもつれさせて彼は転んでしまった。