第2章 聞いてないわ
先月までとは異なる濃いグレーのシャツに薄いグレーのジャケットに身を包んだ彼が立っていた。
「早かったのね」
「ああ、新入生代表挨拶の打合せがあったからな」
スポーツ推薦であるにもかかわらず、主席というなんとも彼にふさわしい肩書だ。
「クラスはもう確認したのか?」
入学式の行われる体育館へ並んで歩いていると、征十郎は問いかけてくる。
「いいえ、まだよ。征十郎はもう確認したの?」
三年前は私とさほど身長が変わらなかったのに、いつの間にか見上げるほどに高くなった彼を見た。
「僕はA組だったよ。華澄も同じだ」
「そう。席もまた隣かもしれないわね」
「そうだな」
私と目を合わせることもなく、ただ前を見て歩き続ける彼に少し寂しさを感じながら、小さく息をついた。
「(…もう、私に微笑みかけてくれることも…頭を撫でてくれることもないのね…)」
以前ならば当たり前だったこと。
それも今となっては全くと言っていいほどなくなった。
彼の笑顔を最後に見たのは、一体いつだっただろう…。
もう随分前のことすぎて、どんな顔で笑っていたのかさえも思い出せない。
だが、その原因を作ったのは紛れもない私自身だ。
私は寂しげな笑みを浮かべて下を俯きながら、額の傷跡をそっと撫でた。