第12章 記憶
眠る時間が増えた。
気がつくといつも眠ってしまう。
眠くなんてないのに、なぜか眠っている。
だんだん記憶が薄れていく。
ここがどこなのかも、ここにいる理由も、忘れてしまった。
一昨日何をしていたのか思い出せない。
きっと明日になったら、今日のことも忘れてしまうのだろう。
(……私は、篠塚蒼。高校一年生で、両親二人との三人暮らしで、隣には大事な幼馴染みが住んでいて……)
大丈夫。大切なことはちゃんと覚えてる。
忘れてしまったのはここ最近のことだけのようだ。
羽交い締めにされて、顔にスプレーを吹き付けられて、そこから記憶がない。
(……誘拐、されたのかな)
だから、知らない場所にいるのかな。
(…………やめよう)
何も考えたくない。
このままずっと眠っていたい。
忘れてもいい。何もかも忘れてしまえ。
きっと、覚えていたって、思い出したって、つらいだけだ。
瞼を閉じ、私は全てから目を背けた。